Black Ashes - Born Under the Black Skyライナーノーツのようなもの

2021/11/07 23:53

久しぶりのリアルイベント参加という事で準備自体は比較的早く、大体ワクチン接種の目処が立つ頃には半分ぐらい完成させるスケジュール感で進めてはいたのだが、とにかく俺の仕事が忙しい上に資格試験の勉強までしていたので(※今もより上のランクの資格のための勉強中)、まあとにかく時間がなかった。多分一ヶ月ぐらいバッファを持って作業していたと思うが、そのバッファは見事になくなってしまった。

そしてこれは毎度のことだが、俺のアルバム制作作業はとにかく歩留まりが悪い。何しろ概ね曲として完成はしたけどアルバム構成のバランス的にボツの曲がザラにあるので、今回もほぼ譜面が完成している曲が4曲ぐらいあるし、それらがいつ日の目を見るか判らないので、まあ効率は本当に良くない。

今回のアルバムは前作以上にメロディックデスメタルや北欧メタルの方向に振っている、というか明らかにイエテボリスタイルのメロデスから影響を受けた曲やフレーズがあるし、Sentencedからの影響も恐らく感じられるだろう。そもそも俺のメロディックなアプローチのギター自体、Miika Tenkulaからの影響が半分ぐらいを占めているのだが。(残りはParadise LostのGregor Mackintosh)

またスクリームを多用する作風な事もあって普段はクリーンヴォーカルのメロディもあまり日本語を念頭には置いていないのだが、今回はアルバムの構想段階で日本語のパートを増やそうという事にはなっていた。実は俺は日本語と英語のリズムの取り方の違いなどを理由に英語日本語混じりの構成には少々懐疑的だったりするのだが、スクリームとクリーンで言語の違い以上の振れ幅を出せば、あまり気にならなそうなので今回は新たなチャレンジとしてやってみた。また作詞でも「英語パート:俺」「日本語パート:妹」というスタイルで共作している。

今作は色々と試行錯誤した結果として、暗黒性、攻撃性、叙情性の全てで前作を上回る作品になったと思う。前作はある意味では俺と妹がやれることを色々模索した結果な面が強かったが、このアルバムでBlack Ashesとしてやる意義みたいなのが見えたと思う。

以下は各楽曲の簡単な解説だったり裏話だったり。

1. Nightmare Overture

アルバム制作の中盤、アルバムのオープニングに相応しい曲がまったくないことに気がついたので、少々考えた結果インスト曲でアルバムを始めることにした。Judas PriestのThe Hellion〜Electric Eyeの流れを意識して書いた小品だが、どうか。

なお曲の冒頭のエフェクトはCalfプラグインのVinylで発生させたノイズで、ピアノとリードギターの前半もVinylプラグインで古臭く、少々奥まった音にしている。

2. The Kingdom of Pain

アルバム収録曲で最も早い段階で書けた曲で、この曲でアルバムのトーンが決まったと言っても過言ではない。前作では意外とリフをそこまで主張させていなかったのに対して今作はよりギターリフを曲の中心に据えるようになったが、それはこの曲に引っ張られた結果である。イントロのリフが浮かんできた後は流れで一気に書き上がったのだが、俺の曲作りはこうしてリフが思いつくか、そしてそのリフが後の展開を導いてくれるかでスムーズに進むかが決まる。

クリーンヴォーカルのメロディは俺なりに歌謡曲とか演歌を解釈した結果なのだが、それは前述の通り初めて日本語を前提にしてメロディを書いた事が背景にある。とはいえ20年ぐらい日本のポップスをろくに聴いていない人間の書いたメロディなので、どの程度日本っぽいかはよくわからない。そういった結果として妹には今までやってこなかった節回しにチャレンジさせる事になった。基本的にこれまでは負の感情に満ちたスクリームとクールなクリーンヴォーカルという対比でやってきたが、今回はクリーンでも情念を込めるように指導している。

これまた前述の通り日本語パートは妹が書いているのだが、妹は俺と作風が全く異なり毎回ロマンティックな要素を入れてくるのだが、この曲は特にイメージがまったく合わずに困ったことになった。そのため、この曲は日本語パートも俺が結構手を加えている。

歌詞のテーマは死ぬまで目を背けることができない苦痛について。

3. Seasons Past

確か最後にできた曲だったと思う。冒頭に書いた通り途中から死ぬ程スケジュールがタイトで、しかしそんな中でアルバム収録曲のバランスを取っていった結果としてあらかた書き上げた曲を容赦なくボツにしていった所、収録曲が足りないという事態になってしまった。

確か歌録りの前日の深夜にギターソロ以外の演奏を全部録音、歌録り当日になっても俺の歌うパートの歌詞が一部できていないので俺は後日仕事の昼休憩中に録音という、これが本業の仕事だったらデスマーチだぞテメェというスケジューリングだった。そもそも歌録りの日は新型コロナワクチンの2回目接種の日で、まあまあ副反応でグロッキーになりながら妹の歌録り作業をしていたんだったっけか。

曲の解説らしい解説がないが、これはもうテンパりながらギターを弾いていたら降りてきたフレーズをタブ譜に起こしながら気合だけで書いた曲なので、どういう意図で書いたのか本当に覚えていない。ギターソロも後でタブ譜に起こしてみたらなんか9連符とかを勢いで弾いていて、当然その事も記憶にない。

歌詞は困難な状況の中で生き方を変えることについて。いやまあ、こんな無茶な生活はもうやめた方が良いのでは?という極めてパーソナルな事情が発想の元ネタなんだが。

4. Blood Stains

本当に一番最初に録音したのはこの曲だが、その後一部の歌詞とアレンジを変えることにした。最初はスラッシュビートで突撃するスウェディッシュデスメタルに近い、もっと言えば思いっきりAt The Gatesの影響下にあるドラムパターンだったのだが、スラッシュビートにマッチする歌詞だと妹の語学力的に厳しいという事で、今のような形に落ち着いた。

曲の構成はB♭マイナーのメタルリフ→Cコンビネーションオブディミニッシュのデスメタルリフ→Fフリジアンのメロディーという流れで、最終的にCのコンディミで終えるという今までBlack Ashesではやってこなかったようなアレンジになっており、ここは個人的に結構上手くやれたポイントだと思っている。今回は他の曲が概ねダイアトニックコードからあまり逸脱しないお行儀の良いアプローチなので、部分的に純然たるデスメタルのアプローチを入れたこの曲は個人的には結構アルバム中で重要なアクセントかなと思っている。

歌詞は虐待と自傷行為について。

5. As Eternity Ends

Paradise Lostからの影響丸出しのゴシック系の曲。この曲はとてつもなくヘヴィかつ美しい曲を書こうという意図もあったので、チューニングを全弦3音下げのスタンダードB♭にしている。(他はスタンダードCかドロップB♭)そのためバリトンギターでギターパートの多くを弾いている。

何気にアコースティックギターを導入した初めての曲でもあるが、チューニングをここまで下げると今まで使っていたギターの弦ではかなりギリギリであった。幸いverseのバッキングで簡単なコードストロークしかしていないのでこれでも良かったが、今後アコギをもっと取り入れた曲を書いた時にはもう少しこちらも突き詰める必要があるか。

歌詞は殆ど妹が書いたものを採用したので俺からのコメントは事は特にないが、実はコーラスこそ日本語を前提に書いたメロディなもののヴァースはどっちにするか決めていなかったので、ヴァースも作詞する事になった妹から「歌詞を乗せるのが難しい……」とクレームが付いた。また俺だけがスクリームする曲なので、妹と俺が両方スクリームする曲と若干スクリームのスタイルを変えてみている。

6. Innocence

The Kingdom of Pain同様に俺と妹のスクリームの掛け合いから妹のクリーンヴォーカルで歌われるコーラスへなだれ込む曲で、多分これまでで一番キャッチーなコーラスの歌メロの曲と思われる。プリコーラス終盤のスクリームとオーバーラップしながらコーラスが始まるアレンジは前々からやってみたかった事だがどうか。

この曲を始め今回はギターを最大で8本ぐらい重ねている曲があるが、おかげでミックス作業が信じられないぐらい大変だった。イントロとエンディングのリードギターのフレーズはオクターブの下の方をピックアップのブリッジポジション、上の方をネックポジションで弾くなど結構最終的な音作りで試行錯誤というか四苦八苦した覚えがある。

コーラスでは3度下と5度下のハーモニーを控えめに加えているが、これはHelixのエフェクトをヴォーカルに掛けてやっている。というかBlack Ashesのクリーンヴォーカルパートは、結構な部分がHelixでエフェクトをかけて音作りをしている。(大体Tube Preに通して場合によってはコーラス、ディレイ、ハーモナイザー)

ギターソロでは俺にしては珍しくスウィープピッキングを取り入れている。最初は俺の手癖である小指→薬指or中指→人差し指→薬指or中指→人差し指→薬指or中指の6連フレーズや3連上昇フレーズだったのだが、流石に似たようなフレーズ使いすぎだったので少し反省して新しい技術に挑戦したがどうだったか。

歌詞は他の曲同様に妹に日本語パートを先に書かせて、それに合わせてスクリームパートの歌詞を書くという手法を取ったが、まあそれなりに妹の世界観に合わせることはできた気がしなくもない。

7. Reason to Live

1990年代のイエテボリスタイルのメロディックデスメタル+2000年代のフィンランドのノリノリゴシックな感じの曲で、In FlamesのThe Jester Race期あたりを想起させるリフ&スクリームパートと、Sentenced影響下にあるノリノリゴシック特有のザクザクした伴奏とキャッチーな歌メロを組み合わせた構成。俺が書いたにしては比較的明るい印象を受ける曲だと思う。

今回は前作に比べて俺のヴォーカルの比率が大分下がっているが(今回クリーンは一切歌ってないし)、この曲はスクリームとクリーンで分業した結果従来に近いバランスになっているか。実際の所レコーディングしてみるまでスクリームパートはどっちがどこを担当するか決まらない事も多く、実際に録ってみてしっくり来た方を採用みたいな流れなのだが、この曲はアレンジ的に俺が殆どのスクリームを担当したほうが良い結果になりそうだったのでそうした。

実はこの曲は収録曲で一番迷いがあった、というか収録するか自体が微妙な曲ではあった。冒頭のギターソロが冗長な気もするけどないと他の曲との繋がりが悪いよなあとか、中盤のギターソロのフレーズはこれでいいのか?とか、曲調が流石に明るすぎない?とか、色々。結果としてこの曲を褒めてくれる感想も頂いているので、収録して良かったというか俺の感覚って結構ずれているのかなあと思ったり、思わなかったり。

歌詞は1曲ぐらい妹の作風で俺が書いてみてもまあバチは当たらんかと思って書いたもので、特に何か言いたいことがあるわけではなかったりする。そして改めて俺はこういう作風じゃねえなと思ったので、次回からは陰鬱な歌詞ばかり読ませるので覚悟するように。>妹

8. World of Despair

超が付くほどイエテボリスタイルの曲。最初はドラムのビートが2〜4倍でスラッシュビートの曲として書いていたのだが、あまりにもしっくり来ないのでビートを思い切って遅くしたら明らかにそちらの方が良かった。これもかなり終盤に出来た曲で、かなりテンパりながら書いた覚えがある。

今回は妹がスクリーマーとして成長したこともあり、むしろ俺のスクリームとの差別化が課題になっていたのだが、俺が今まで以上に低い帯域でのエグい発声を狙うことでどうにかメリハリを付ける事にした。そしてこの曲のヴァースがそれがもっとも色濃く出ていると思われる。もう少しエグい発声ができたかもしれないが、そこまで行くとメロデス路線の曲でやるべき事なのかわからない。

この曲はコーラスパートでリードギターとクリーンヴォーカルがユニゾン気味にメロディを追っている構成だが、これはそもそも最初は全編スクリームの曲として書いた名残で、メロディックデスメタルなどで使われるスクリームとメロディが同期することで攻撃性と叙情性と融合させるアプローチを狙ったものだったが、いざ録音してみるとスクリームでだと色々と微妙だったり無理があったりしたので、急遽レコーディング当日にクリーンヴォーカルに書き直した。

歌詞は苦痛や苦悩を共有できる仲間やコミュニティと、それらを失った後の困難について。

9. Children of Broken Gods

ミッドテンポでこれも中々ゴシックメタル色が強い曲。この曲もParadise Lostの影響下にある部分が多いが、スクリーム・クリーン両方ともヴォーカルラインの発想は別の所にある気がしなくもない。明確なギターソロらしいフレーズのない曲だが、その分曲の全編にわたってリードギターがメロディを奏でている。

実はこの曲の半分ぐらいはLycanthrope名義の方で途中まで制作していた曲で、そちらでやるにはメロディアス過ぎるので完成させず、恐らく6年ぐらい放置していたと思う。今回Black Ashesが大分ダークでヘヴィな方向に寄ってきたことで、記憶の片隅にあったこの曲の存在を思い出して引っ張り出してきた。なお6年前にタイトルどころか歌詞の一部も書いていた。

この曲では妹に一瞬だがガテラル気味のスクリームやウィスパーなどのチャレンジをさせている。ガテラルに関してはフォールスコードスクリームができればその延長線上である程度はできるというか、単に舌を上の前歯の付け根付近に付けつつ口腔の形を変える事で倍音を調整するだけなので、習得の難度の割りにアクセントとしては結構有用だと思われる。(フォールスコードスクリームの出し方はそのうち解説するかも。)

歌詞は二世カルトなど信仰の犠牲者について。

10. Bereavement

アルバムの締めくくりにインスト曲があると良いかな、と思って書いた曲。アルバムのオープニングであるNightmare Overtureと対になるようにフレーズや曲の構成を作ったつもりではある。

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Chikara Kuwata@Return0 Records
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